コウケンテツ×福岡の食と人<br>企業の枠を超えて新たな視点で探る<br>人と食の未来へ向けて、私たちができること。(後編)
2021.01.15

コウケンテツ×福岡の食と人
企業の枠を超えて新たな視点で探る
人と食の未来へ向けて、私たちができること。(後編)

食育や人材育成への提案について、情熱あふれるトークが繰り広げられた座談会。続いての話題は、さまざまな影響をもたらす最新テクノロジーとその裏側にある生産の現場について、皆さんはどう感じているのでしょうか?

AI化と後継者不足、食糧自給率 生産の裏側にひそむ問題とは

―コウ: 料理学校だったら、一緒に学ぶライバルがいて競争心が芽生えるという側面もあると思うんですよ。それに加えて、今の若い世代はAI や科学技術にも対抗しなければならない。そんな中、西部ガスグループさんで言うと、「たべごころ」で「大地とともに生きる」という昔ながらの生産者の方の生き様を取材しつつ、かたやLED で育てるレタス工場を展開しています。食料問題解決のために科学技術も必要とされていると思うんですけど、両者は相反する関係性のようにも思えてしまいます。西部ガス社員の池田さんはどう考えていらっしゃいます?

―池田: 農業を取り巻く課題に、気候の変化や農業従事者の減少などがあります。レタスの工場はそれらの解決策の一つとして、安心安全な野菜の安定的な生産という視点で取り組んでいますよ。一方で、コウさんに「たべごころ」で取材いただいている生産者・産地に対しては、番組をご覧の皆さまに九州の食材ってこんなに豊かで多様性があるんだと知ってもらって応援いただきたいという気持ちです。こちらの世界も大事なんです。これからは、こんな風に食材に対する考え方も二極化していくのかなと。

―中村: 本当におっしゃる通りだと思います。食料事情を考えますと、この先は工場のように大量生産するスタイルの方が増えていくのかもしれませんが。

―相川: 生産者の人もどんどん減っていますよね。僕も実家に帰ったら畑だったところが山になっちゃって、同じぐらいの世代の生産者には後継者がいない。そうなるとモノが少なくなるはずなのに何で減ってないかって言うと、輸入に頼っているんですよね。でも、これも何かあった時に止まってしまう。食料事情って大変な問題なんですよ。

―池田: 生産者も苦労する割に収入が少ないから続けられないんです。そこを AIや機械でカバーするという狙いもあります。でも金銭的な負担がかなり大きいので、次はそこを解決してやらないと。一個人でなんとかなる問題では無いようです。

―相川: コンピューターで制御された機械で野菜の収穫をする農家もあるんですけど、ロス率が高くて本当の実用化には追いついていないし、日本ぐらいの規模だとまだまだ全然使えない。日本人は発明や開発が得意ですから、その技術を食の方に向ける必要があると思います。そういうスタートアップ企業への出資も大事なんですよね。

―コウ: 人の力とテクノロジーの融合が必要ということなんですよね。

―中村: どっちも必要ですね。しかも同時に進めないと。

―相川: 作ってくれる人がいないと食べたい料理も食べられなくなっちゃうじゃないですか。気づいた時には遅いんですよね。短期間でできる話じゃない。
畑だって、2年もあれば完全に草むらになってしまいますけど、戻すのは10年かかりますから。

―コウ: 第1回の座談会で、魚市場の方が「何十年も前に、日本人がお米を食べなくなった時点で魚の敗北は決まっていたんだ」と話していらっしゃいました。日本人にとって炭水化物とタンパク質の源だった"ご飯と魚"ですが、ご飯を食べなくなると同時に魚の消費量も減っていったんです。だから水産業だけでの問題ではないと。ある程度の未来予想図は描かれているので、業界を飛び越えて協力が必要です。

―相川: そうは言っても、国や自治体の対策は、どうしても縦割りなんですよね。水産、農業、などきっちり分断してしまう。食べる人の気持ちとしては、魚もご飯も一緒なのに。

―コウ: 西部ガスさんはグループ化して、縦割りじゃなくて横のつながりを非常に強化されていっている印象ですね。

―池田: そうですね。「グループシナジー」を目標に、グループ会社同士の会議や情報連絡会議なども実施しています。

―コウ: 今後の展開についてビジョンはあるんですか?青写真があれば教えていただきたいです。

―池田: 我々はエネルギーと"その他事業"の収益を半々にしていきたいと発表しています。"その他事業"の一つは不動産、一つは食。ガスとの親和性の高い食住環境の提案事業、その辺も考えながら取り組みを強化していく方向です。

食の未来を輝かせるために 事業継承という"盲点"への提言

―相川: 食の未来といえば、今は飲食店の事業継承が問題になっていますよね。

―中村: 日本の状況はすごく変なんです。料理人というのは、終わる時が一番大事だと思うんですけど、今の日本は、体力がなくなってグダグダで終わってしまうのがほとんどなんですよね。フランスで働いていた時、レストランを経営されていた知人が引退し経営されてレストランを譲る方がいたんですけど、ものすごく条件がよかったんです。事業継承の形がきちんとできているから、むしろ引退した方が収入が増えるとまで言われていました。若い人もそういうところを見てますよね。それで料理人を目指すから、業界も賑わいますよ。日本の場合は、給料は安いし、肉体的にも大変だし、お店を出しても最後にグダグダで終わってしまうでしょう。

―相川: 僕のところでも、事業継承についてちょっと相談を受けているんですよ。そのお店を目当てにお客さんが足を運ぶくらいの名店が地方にあるんだけど、後継者がいない。閉めてしまうと観光客が減ってしまうので、公共交通機関も売り上げが立たなくなる。何か対策は無いかと。実はそのお店ではなく、公共交通機関を運営する企業からの相談だったんです。
それなら、ファンドを作ってその店を購入して、料理を作る人たちが安心して続けられるようにすればいいのではと提案しました。その店へ来たついでに巡る観光ルートができるし、街が活気付きますよと。特に「食」って旅行に行く時の一番の楽しみになるし、雇用を守ることにもなりますから、地域も潤う。そもそも文化が残せるじゃないですか。大企業にとっても、結果として本業につながるのであれば一番いい話なんじゃないかと思います。

―池田: なるほど、締め方って大事なんですね。西部ガスとしては、開業支援のご相談はたくさんいただくんですけど 、閉店される時はガスの閉栓の依頼ぐらいだったなあ。

―相川: 本当はお店の味をつなぐ人を見つけてあげないといけないんですよね。長年通ってくれたお客さんいるし、レシピもあるわけですし。もっと大事にできたらと思うのですが。

―中村: ヨーロッパはそのあたりがしっかりできているんですよ。

―相川: ドイツのマイスター制度(職業能力認定制度)という考えにもつながっていますよね。料理人は専門的な技術や知識を持つ職人として公に認知されている。

―中村: そうですそうです!認知されているからこそ、料理人を目指す人もいるし、老後が裕福になる。お店を閉めるにしても、次へつないで行けるなら、飲食業界にも人材が集まるんじゃないかなと思うんですよね。

―コウ: 確かに、僕の知り合いも新型コロナの影響で店を畳んじゃう人もいます。全国的にそうなんじゃないかと思うんですけど、やっぱりお店を経営されていると、毎日死ぬほど働いてクタクタになって、家にほとんど帰れない状況。子どもにしたら、料理人の親と遊んだこともない。でも、気が付いたらこんな状況で店を畳まないといけない。おっしゃるとおり夢がないんですよ。いい未来予想図が立てられない。
日本の食文化は世界に誇れるものなのに、トータルで考えるといろんな盲点が存在するんだなと痛感しています。企業や自治体、国がうまいことサポートしないと、人材育成どころじゃなくなってくるんですよね。

―中村: そうなんですよ。料理人の犠牲で成り立っている料理業界なんです。だからコストパフォーマンスという言葉が流行ると、自分としては複雑な気持ちです。技術料もなく原価だけで物を作ると、最後はグダグダで終わってしまう。やっぱり最後が一番大事だと思うので、そこをフォローするシステムがあればそれだけで、世の中が一変すると思うんです。

―コウ: 飲食業界だけではなくすべての業界でも言えることですよね。

―相川: あと、"考えている人"か"考えていない人"か、それでかなり変わってきますよ。経営者にも、いろんな工夫でお店を引っ張っている人と、ただ目の前のことだけを淡々としている人がいるのですが、淡々としている方が楽なんですね。だから自然と何もしない方に傾いてしまう。
「いい店だったのに、なんかこの頃違うよねって」という印象になった店は、引っ張っていたオーナーが引退して、別の人になったタイミングが多い。周囲を見ずにだらだらと続けていくだけでは淘汰されてしまうし、しっかり考えて営業しているお店は生き残っている。

―中村: だからこそ、"考える力"を身に付けないといけないんですよね。

―コウ: 自分でしっかり考えて、色んな環境にフレキシブルに対応できるような人材の育成がすごく大事。そこに対するバックアップの体制も重要です。この両輪があって初めて食文化って残っていくんですね。

―相川: あと、食べる側の人達も考えないといけないですよね。さっき中村さんがおっしゃっていたコストパフォーマンスの話。物を作ると必ずコストがかかるわけです。今は安くないとお客さんが離れてしまうという傾向ですが、結果としていい店もさらに値段を下げないといけなくなってしまう。これが当たり前になってしまうと危険ですよ。福岡のランチの値段だと、500円、600円はザラにありますけど、これも安すぎじゃ無いかと思うんです。海外だと1000円は普通じゃないですか。

―中村: 正直、技術料が価格に反映されてないですよね。

―池田: やっぱり値段には理由があると思うんですよね。手間ヒマを考えると、この額でやれないでしょ!?ていうお店がいっぱいありますもんね。

―中村: やれないことを無理やりやってますからね。うまくいかないわけですよね。

―コウ: 海外の例だと、イタリアのトリノで世界一規模の食材の祭典と言われるサローネ・デル・グスト (Salone del Gusto)というスローフードのイベントがあります。
世界中から食のプロフェッショナルの方や生産者の方を招き、食に関する様々な情報交換や、食の未来を考える素晴らしい国際的イベントです。開催時期は、地元もすごく活気付きます。入場料だけで35€、日本円にして約4,300円(5日間パス)もかかるし、ちょっと飲み食いしたらすぐに万単位のお金がかかるのですが、お客さんは長蛇の列。しかも地元の人は絶対に毎年行くんです。なぜかと言うと、世界中から来る生産者の宿泊費と旅費を、自分たちがペイするお金でまかなえるんですよ。だからこそ、あえてお金を落しにいく。会場に行くだけでも、食文化や地域に貢献できるというシステムになっているのです。
これは地元の人の食や社会参加に対する意識の高さの表れですね。新しい情報や生産者の知り合いを得るため、美味しいものを食べるためという目的に加えて、社会のために参加する。修学旅行生や小学生たちもそれを体感できます。イベントを通して生産者のモチベーションも上がるし、食べる側の消費者の意識もすごく上がるという良さがあるのだと思います。

―中村: なるほど、それは素晴らしい関係ですね。

―池田: 日本では消費者のマナーの問題もありますよね。黙ってキャンセルする人が増えていて、そのための保険もあるそうです。もうちょっと広い視点で食に関する問題を見ていかないと。福岡は食に力を入れているんだから。「この街の活気を私たちも支えるんだ」ぐらいまで思ってもらえるよう、飲食店と消費者でコミュニケーションを築いていくとか。

―池田: 料理が出てくるのが当たり前ということではなくて、そこに行き着くまでの物語がたくさんあると思うんですよね。生産者や料理人に対する知識があったら、もう少しマナーが浸透するかもしれません。私たちは、そういう情報を伝えて、体験してもらう場を作っていくことが大事なのかなと感じました。

今回は、日常に溶け込む"食"からは一歩離れた位置で、さまざまな課題に取り組む3人のプロに語っていただきました。飲食業界に身を置く人には切実でも、消費者である私たちにとっては意識したこともないような事実がたくさん出てきたのではないでしょうか。でも、人間が避けて通ることのできない食でつながっている以上、今日教えていただいた問題は、いつか私達にも降りかかってきます。コウさんがおっしゃったように立場や業界を越えたダイナミックな連携をキーワードに、それぞれができることを考えていきたいものですね。
座談会の内容に少しでもピンとくるものがあれば、ぜひウェブサイトなどにも目を通してみてくださいね。最後に、参加した皆さんの感想をお届けします。

―中村: 自分が日頃考えている範囲を超えて、広い目線で物を見ることが必要だなと痛感しました。

―池田: 全く知らない世界からいろんな意見が聞けて勉強になりました。食を通じた社会貢献をしていく中で、今後に活かしていきたいと思います。

―相川: 今日は皆さんのお話を聞けて、僕らがやっている事は間違いじゃないというのが確認できたのも収穫でした。皆さんの周りでチャレンジしている人がいたらぜひお声がけください。

―コウ: 会話自体がすごくエキサイティングでしたね。食だけではなく、どの業界においても、やっぱり根っこの部分で繋がっていると再確認できました。私も個人事業主ですが、起業を目指している若い人たちもたくさんいらっしゃると思います。今回のお話の中には、生き方としての心構え、ヒントがたくさんあったんじゃないでしょうか。「これから自分で何かをやりたいけど、何をやっていいのかわからない」と悩んでいる人たちにはぜひ参考にしていただきたいです。
素晴らしいお言葉をたくさん頂きました。ありがとうございました。

コウケンテツ×福岡の食と人
企業の枠を超えて新たな視点で探る 人と食の未来へ向けて、私たちができること。

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