コウケンテツ×福岡の食と人<br>"福岡名物の仕掛け人と考える<br>地域の食文化を守り、伝えるためのアイデアとは"(後編)
2020.11.06

コウケンテツ×福岡の食と人
"福岡名物の仕掛け人と考える
地域の食文化を守り、伝えるためのアイデアとは"(後編)

魚離れの話の向こう側に、もっとも身近な食文化="家庭の食卓"の可能性が浮かびあがってきました。自分目線で考えてみると、食文化の未来について見えてくるのではないでしょうか。今度は、時代に合わせた商品作りに力を入れているマルタイの長尾さんにもお話を伺いましょう。

家庭の食を映し出す 「長崎皿うどん」の変化

―コウ: 魚だけに限らず、食文化を守り、伝えるには家庭での食事に目を向ける必要がありそうです。そもそも、「お父さんが外で働いて、お母さんが家事をする」という旧来のスタイルではなく、働き方や家族構成が多様化しています。
"自分の生活に合った食"を求められるのが、今の食文化の難しさではないのでしょうか。「マルタイラーメン」の長尾さんは、食文化の変遷をすごく間近に感じてこられたと思うんですけど、現代の食文化に対してどう思われますか?

―マルタイ長尾健太郎さん(以下、長尾): そうですね。例えば、「長崎皿うどん」のパッケージ。この"簡単調理4分"のコピーなのですが、実は今年の春から入れ始めたんです。いろんなデータを見ると、「できるだけ食事にかける時間を減らしたい」と言う人がたくさんいらっしゃるんですね。それに、この写真も。野菜を目立たせているでしょう。
「皿うどん」「ちゃんぽん 」は、まだまだ全国的にメジャーと言えませんが、手軽に野菜がたくさん摂れるという点をアピールする狙いなんです。

―コウ: なるほど、利便性と合理性に見合った商品ということを打ち出しているんですね。他に地元の食文化を残すために、取り組んでらっしゃることはありますか?

―長尾: 直接的に魚を具材として取り入れるのは難しいかもしれません。でも、鯛やあごのだしはすごく美味しいですよね。博多のお雑煮にも使われていますし、最近は福岡でも「非トンコツ」といって、豚骨以外の醤油ラーメンなどが増えていて、中には魚のだしを使ったラーメン店も増えています。マルタイも、「長崎あごだし醤油ラーメン」などの魚のだしを使ったラーメンもラインナップとして取り揃えています。

―コウ: なるほど。九州ならではですね。あごや鯛、熊本ではお雑煮に焼きエビも使ってました。海の国ならではの奥深い文化ですよね。でも、今では水産資源も減少しつつあるとか。

―廣川: そうなんです。地球温暖化が進んで海水温が上がり、本来ならその地域で獲れないような魚が現れるようになった。逆に言えば、今まで獲れていたものがいなくなってしまった。あごだって、平戸で獲れるトビウオじゃないと、おいしいだしが出ないんです。

―コウ: じゃあ、このままいけば、いずれあごだしも食べられなくなってしまうと‥。

―廣川: そうですよ。大手のだしメーカーが使ういりこを作る人も少なくなってるんです。

―コウ: ええっ!遂にそこまで‥。

―廣川: 本来獲れていた魚がいなくなって、生計が成り立たないから漁師を辞める家庭も多いんです。今現役の漁師さんもどんどん高齢化している。いろんな要素が合わさって、今の状況になっているんですよ。

―コウ: 漁業の世界は、本当に逆風、嵐との戦いの歴史ですね。

体験+感動が次の文化を生む チームで逆風を乗り越えろ

―コウ: 福岡中央魚市場では、水産資源を守り、食文化を伝えていくためにどんなことに取り組まれているんですか?

―廣川: やっぱり魚食普及ですね。少しでも触れて欲しいと、毎週第2土曜日の「市民感謝デー」という市場開放を10年以上やっています。今は中断していますが、再開されたらぜひ市場の様子を肌で感じて、魚を買っていっていただければ。

―長尾: 以前開催されていた「握り寿司体験」に子どもを連れて行ったことがあります。無料だしすごい人気なんですよね。そういったイベントも魚を体感するいい機会なんじゃないでしょうか。

―コウ: 小田代さんがおっしゃっていた、"経験"ですよね。

―廣川: でも、今はコロナでイベントができないので、どう伝えるか。そこも課題です。

市場一般開放の様子
※現在、市場の一般開放は新型コロナウイルス感染症対策のため、中止しています。

―廣川: そう言えば、スーパーなんかでお客様に3枚おろしにした魚をお渡しするんですけど、最近は頭やアラはいらないってよく言われるんですよ。
目が怖いって。味噌汁にしたら刺身よりうまい位なのに。

―コウ: 怖いですか‥。なかなかハードルが高いですよね。
魚は食べていただきたいんですけども、「目が怖い」と言う人にどう伝えられるか。伝え方って、本当に大事ですよね。

―コウ: 僕はYouTubeを使ってレシピ動画を発信しているんです。それまではテレビや本でレシピを発信するばっかりで、実際に作ってくださった人の声を受け取る機会ってなかなか無かったんです。YouTubeには、コメント欄がありますから、視聴者の感想がダイレクトに返ってくる。そこから反省点や修正点を次のレシピに反映できる。
ある時、僕と皆さんの思いが合致する瞬間があって、これがすごくエキサイティングだったんです。伝え方次第でこんな感動が生まれるんだと。
だからSNSやイベントも遠回りに見えて着実な階段を踏んでいる。大事なプロセスなんだと皆さんのお話を聞いて確信しました。「伝え方」について、我々はもうちょっと真剣に考えなければと強く感じています。

―小田代: 身近なところで言えば、今はスーパーなどの店頭でも「こういう風に食べるとおいしいですよ」って伝えられる人がいないんですよね。

―廣川: そうそう。私が店頭で食べ方をおすすめした時は成功するもんね。

―コウ: ネットもいいですが、どっかで人と人とのつながりであったり、触れ合うことっていうのも大切なんですよね。

―小田代: 発信力も大事なんですけど、やっぱりそこに思いが加わらないと。「魚を食べましょう」だけでは、こちら側のエゴだけを押し付けてしまうことになるんですよね。

―小田代: うちの例で言えば、最近売り上げを伸ばしている「ノルウェープレミアムミンク鯨」という商品ですね。原料のクジラを買い付けている方は、とにかく思いが強い。なんでも、アメリカに留学していた時に「なぜ日本人はクジラを食べるんだ」って、散々言われたらしいんですね。それが悔しくて悔しくて。「おいしいクジラを世界に広めてやろう」って、チラシやパッケージも全部自分で作って本まで出したんです。そういう情熱まで発信できたから結果につながったんだと思います。

―コウ: 商品+どれだけ思いを込めて消費者に伝えるか、なんですね。

―廣川: クジラは昔はすごい値段だったんですよ。今はずいぶん安くなっている。それって食べる人がいなくなっちゃったからなんですよ。鮮度が良くよくて新しいやつはくさみもないし、うまみも強いのに。

―小田代: そうなんです。この鯨の試食販売の時も、「クジラは身がくさいから」なんて言われましたけど、実際食べてみると大好評。食べておいしさを感じてもらうのも大事なんですよね。

―コウ: 僕も福岡に来たときによく「鯨の刺し盛り」を食べるんですけど、まぁおいしいんですよ。「目が怖い」って話もそうですけど、実際食べたらわかるんですよね。

―長尾: 「食べてもらえばわかる」という点で言えば、「長崎皿うどん」もそうなんです。やっぱり地域性が強くて、関東方面ではまだまだ弱い。

―コウ: そうなんですか?すっかり全国区かと思っていました。

―長尾: 長崎の外食チェーン店さんが全国展開されて、だいぶ知名度も上がったんです。でも、日常の食事の選択肢に「長崎皿うどん」はまだまだ入っていない。そこで、「まずはパリパリ麺のおいしさから伝えてみては?」という発想で、サラダに合わせて食べる「パリパリサラダ麺」を開発しました。皿うどんの進化系ですね。
定番の「マルタイラーメン」にしても、「冷やし中華」など、いろんなアレンジができるんです。テレワークの普及で、家でさっと食べたいという方に向けて、そういう情報を発信できればと考えています。

―コウ: なるほど!それなら、お魚とコラボできないでしょうか。スーパーの魚コーナーに「マルタイ ラーメン」をセットにして、「このまま魚の尾頭と煮たらおいしいよ」みたいな。魚のサクをスライスして、カルパッチョみたいにサラダ麺にのっけてみるとか。

―長尾: あはは。「尾頭付きラーメン」ですね。

―コウ: 食文化を伝えるとなると、一企業だけで取り組むというよりも地域総出で取り組まないと太刀打ちできないような時代ですよね。
多様化する時代の中で、食に触れてもらって、その楽しさを伝えていくことが非常に大切だなと思います。
では、最後に皆さんから感想を一言お願いします。

―西山: 私自身も畑違いの分野から福岡中央魚市場に異動してきたので、消費者の方の気持ちがよく分かります。小さなステップではありますが、まずは自分から魚のおいしさ、楽しさを伝えていかなければならないし、会社としても皆さんとタッグを組んでやっていければ心強いですね。

―廣川: 私も同じですね。やっぱりいかに伝えていくかがカギでしょうね。そして、まずは魚を食べて頂かなくちゃ。給食に出すためには魚の確保が厳しいという面もありますが、魚の食べ方、お箸の使い方などの習慣も含めて、子どもの時から伝えたいと思います。

―長尾: まずは、食事の選択肢の一つになるくらい全国的に知ってもらうこと。地域の食文化を守るという視点でいうならば、「尾頭付きラーメン」じゃないですけど、この場の皆さんと一緒に考えられたらいいなと思います。

―小田代: 皆さん、同じ西部ガスグループですもんね。以前、冗談で「ガス管で魚運べないかな」なんて言ってましたけど、もしかしたらこんな冗談がいつか常識になるかもしれない。我々でタッグを組んで、苦手なところはフォローしながら長所を生かせば道は少しずつ見つかるんじゃないかな。未来は明るいんじゃないかという気がしてきました。

―コウ: 皆さん、ありがとうございます。
僕はね、料理家なので家庭目線で考えますが、やっぱり「九州男児、厨房に入ろう」だと思うんですよ。今まで食のビジネスとって、ターゲットは全て女性だったでしょう。でも、今の時代は女性がどんどん社会に出て経済を回している。だからこそ、男性はもっと家に入っていただきたいと思うんです。お父さんに料理を作ってもらったり、魚を買ってきてもらったり、男性の目線が家庭内に反映されることで現状を打破できるんじゃないかなって。食文化の継承も、今よりもっと力強いものになるんじゃないでしょうか。
その一歩として、僕がすごくいいと思ったのが、サクです。まずお父さんは、晩酌の刺身を切ってみませんか。そこから魚に対する興味が生まれて、最終的に魚担当になるとか。これが世の中を変える第一歩じゃないでしょうか。

食の専門家でもあると同時に、福岡の食を愛する消費者でもある皆さん。会社の枠を超えてさまざまな意見が飛び交い、座談会は大いに盛り上がりました。
最後の感想で触れられていたように、福岡が誇る食文化を守り、伝えていくために企業でも家庭でも、個人でもできることはたくさんあります。
楽しみながら、みんなで取り組むことが重要なのではないでしょうか。
まずは、今宵の晩酌にお魚なんていかがですか?

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